見えない悩みに耳を澄ませた 8【ロミロミ体験記vol.33】
アロハ、ワイレレです🌈
何でも思い通りに動いてくれて、いつも無条件で自分の味方になってくれる奴がいます。
ずっと傍にいて、文句も言わずに自分を支えてくれている。
そこまでしてもらっている自分は、だんだんとそれが当たり前になって、
そいつが本当は何を考えているのか、
何をしてくれているのか、
何かを我慢しているのか、
自分のために何を背負ってくれているのか、
全く考えなくなってしまう。
…今、頭の中に誰かの顔が思い浮かんだでしょうか?
頭に浮かんだその人の事も勿論大事ですが、今日は【身体】のお話です。
身体というのは不思議で逞しく、とっても頼りになる良い奴だと思います。
いつも自分の思った通りに動いてくれて、
思い通りに動かせなかったところだって、ずっと練習していたら滑らかに動くように懸命に協力してくれます。
当たり前だと思っている事の根底には、
自分以外の何か、誰かの、懸命な思いがそこにあると感じます。
昔、彼氏との初めての旅行でフェリーに乗った。
ずっと雨が降っていたけれど、フェリーに乗りこんでから止んだみたいだった。
「せっかくフェリーに乗ったんだから、甲板から海が見たいよね!」
そんな話になって、早速行ってみようと甲板へ向かった。
甲板へ向かう途中に階段がある。
防水加工してある階段は、当然雨で濡れてツルツルさが増して光っている。
『うわぁ、こりゃ滑りそう…気を付けないと…』
そう思って、一歩一歩ゆっくり降りることにした。
楽しすぎる旅行に気が緩んだのか?それとも、滑りそうというイメージが災いしたのか?
事が起こったのは一瞬だった。
案の定、降り始めてすぐ、足がツルッと滑って、あっという間に下までズベベーっと滑り落ちた。
「いったぁ…」
鈍い痛みが腰を襲ってくる。ちょっとやそっとじゃ立ち上がれない程のダメージを受けてうずくまった。
痛い。
痛すぎる…!
「うわぁ、大丈夫?」
何事もなく先に階段を降りていた彼氏が声をかけてくれる。偶然周りにいた人たちも、こっちを見ている。
『ヒーエー!見ないでー!は、は、は、恥ずかしすぎるっ!』
付き合いたての初々しいデートで、大好きな人に階段からド派手に滑り落ちるという醜態をさらすなんて、惨めすぎる。
今滑ったという事実を全部、無かった事にしたい…!
普通ならうずくまって暫く動けなかっただろうけど、恥ずかしさが暴走して、無理矢理に平然を装うことを選んだ。
体が痛いと大声で叫ぶけれど、頭が黙れと一喝し、理性で完全に痛みに蓋をした。
「だ、大丈夫…。ド派手に転んだけど、大きな怪我はしてなさそうだし…。」
そう言いながら、腰を押さえて何とか立ち上がった。
歩いてみたら、何とか歩けそうだ。
痛いやら恥ずかしいやらで、上が向けない。
この数秒の記憶を完全消去したい一心で、腰の鈍痛をなだめすかして誤魔化して平然を装った。
同時に、一心不乱に願った。
『彼氏の記憶から、自分の記憶から、消えてなくなれ!』
旅行から帰ってから、背中の傷がどうなっているのか気になって、お風呂に入る前に鏡で見てみた。
なかなか大きな擦り傷と青あざが目に飛び込んできた。
『あちゃー、擦り傷になってたんだ。この傷は残りそう…。痛かったもんなぁ』
少しションボリする。
『あんまり傷、残って欲しくないなぁ。でも、どうしようもないもんなぁ』
良いのか悪いのか、傷があるのは背中なので、いつもは見なくて済む。
見ようとしないと見えない場所の傷は忘れやすいこともあって、ほったらかしていた。
いつの間にか痛みもなくなり、かさぶたが取れて治っていった。それからは跡が残ったかどうか、鏡を見ることもしなくなった。
それから何年も経って、あんなに痛かったくせに、滑って転んだことは記憶のかなたに飛んで行ってしまった。
腰が立たない。
ヨガをする時、開脚して座骨で座ることがある。この時、いつも腰が立たない。それが嫌で、ずっと腰を立てる練習をしていた。
それでも、どうにもこうにも立たなくて、クムに相談した。
「ちょっと前屈してみてくれる?」
そう言われて、前屈してみる。
クムは「ちょっとごめんね」と言って、おもむろに私の上着をめくって、直接腰を見てくれた。
「え!ワイレレの腰の背骨の辺り、何か変だよ!写真撮ってあげるから見てみて!」
そう言われて、写真を撮ってもらった。
「この写真だけ見ても分からないと思うから、私の腰の辺りを先に見て。これが普通の腰だよ」
そう言って、クムが前屈して背骨を見せてくれた。
その背骨と比べて、写真に写った私の背骨はぼこぼこしていて、腰のあたりの筋肉が引っ張られ、引きつっているように見えた。
「昔、腰のあたりケガしたことある?」
そう聞かれて、少し考える。
「あぁ、、、そういえば昔、フェリーの階段から落ちて腰を打って擦りむいた事があります。あれ、痛かったぁ」
「その時、医者とか行った?」
「いえ、そのまま自然治癒に任せました」
「そうなんだ。医者行ったからってどうって訳じゃないだろうけど…。体が治そうと頑張って、細胞を過剰に集めてきて、その時に背骨と癒着しちゃったみたいだね。だからここが突っ張って腰が立たないんだと思うよ」
あの時、階段から滑って腰を強打して、恥ずかしさに任せてそれをそのまま放っておいたことが頭をよぎった。
今更ながら、強い罪悪感を感じた。
自分で自分に負った傷に罪悪感を感じるのは初めてだった。
「何にもケアしてなかったから、この腰、怒ってるよ。ケガしたら、体はずっと覚えてるんだよ」
腰が、怒る?体はずっと覚えている…?
一体どういう事なんだろう。